こんにちは、代表の足立です。
弊社HPの「会社情報」ページでも少しご紹介していますが、足立建築は「一般社団法人 全国工務店協会・JBN」という団体に所属しています。
JBNは「ジャパン・ビルダーズ・ネットワーク」の略で、要は全国各地の工務店が約3500社も集まっている日本最大の工務店組織なのですが、ここでは、
・住宅政策や制度の改定のための国への働きかけ
・職人不足に対応する職人育成
・工務店や設計事務所の知識&技術の底上げ
・災害時の応急仮設住宅の建設
など、社会的に意義のある活動をしています。
私もこのJBN内部では「環境委員会 副委員長」というたいへん光栄な役を拝命しておりまして、主に住宅の環境性能(省エネやエコロジー、サステナブル)に関する勉強会を企画させていただいています。
さて、今年度の環境委員会のテーマは「建物の長期性能に資する建材・部材」と言うことで、家をかたちづくるパーツの中でも特に着目すべき建材について、全三回の勉強会を実施しました。
1/14に行われた回では、恐れ多くもパネルディスカッションのファシリテーター(上記写真右上)も仰せつかりまして、株式会社日本住宅保証検査機構で専務取締役を勤めていらっしゃる西山祐幸さん(写真左の登壇者左)、日経ホームビルダーなどの業界誌で連載中の雨漏り診断士・久保田仁司さん(写真左の登壇者右)ともお話をさせていただいたりしています。
このようなマニアックな内容は、本来であれば設計者や施工者など、我々業者側が知っていればよいことなのですが、あまりにも衝撃的な内容で、かつ、ほとんどの住宅会社さんがご存知ではないことですので、これは消費者のみなさんにも広く伝えておく必要があるだろうと、ブログでも内容をシェアしておきたいと思います。
正直言って、ここで明らかになった現状については、個人的には耐えがたいほどの憤りを感じています。「日本の家や建材、これでいいのかな?」という感じです。
順を追ってご説明します。
建材の長期耐久性というテーマ選定について
こちらの研修テーマは、実は足立建築がJBN環境委員会にて「これを取り上げるべきではなかろうか」と提案させていただいたものです。
というのも、つい最近、あるご依頼で住宅(弊社が建てた家ではありませんが)の外壁を剥がした際、室内への雨漏りを防ぐための「透湿防水シート」が信じられないくらいボロボロになっているのを発見したからです(下の写真参照)。こちらのお宅は築30年くらいですが、数年前に外壁を貼替ていて、まだ10年も経っていない家でした。
以下の動画の方が分かりやすいかもしれません。メーカー名にモザイクを入れてあるため、見づらい部分もありますがご容赦ください。
「透湿防水シート」という名前がついているからには、雨水などが室内側に入るのを防がなければいけないはずなのですが、たかだか10年でこうなってしまっては、当たり前ですがまったくその効果を発揮しません。
実はこちらのお宅は雨漏りでご相談いただいたのですが、これでは雨漏りしてしまうはずです。また、先に白蟻の被害についてもご相談をいただいていたのですが、これも透湿防水シートの劣化が原因の可能性があります。
白蟻は湿気のある木材を食べていきます。このシートで防水できていなければ、外壁から内部に入った雨水を防ぐものは何もなく、構造材も濡れ放題ということになりますから、これでは白蟻被害が起きるのもさもありなん、と言ったところです。
家の外壁を剥がす機会なんて早々ありませんし、ほとんどすべての住宅会社が同種の透湿防水シートを使用しているため、外壁の下でこのように劣化してしまっている家が、他にも相当な数、あるのではないかと思われるわけです。
透湿防水シートがボロボロになったわけ
透湿防水シートがボロボロになってしまった理由を話す前に、建物の防水の考え方について話します。
建築において、防水は非常に重要な役割を果たします。この世の中には、永久に劣化しない建材というものはありませんので、高耐久な素材を使い、劣化を軽減するための設計上の工夫をして、なるべくその機能を長持ちさせることが重要になってきます。
防水には「一次防水」と「二次防水」というものがありますので、まずはこちらを理解しておきましょう。
一次防水は、外壁や屋根の仕上げ材のことです。これは分かりやすいですよね。建物の一番外側にあって、雨や風を防ぐための役割を果たしています。
しかし、先に述べた通り、劣化しない素材はありません。例えば外壁にサイディングを施工したら、その外壁ボード同士のつなぎ目は隙間が空いてしまうので、その隙間を埋めるために「シーリング材」というものを注入します。しかしこのシーリング材は劣化しやすいものが多く、ひび割れたり、剥がれたりが多発します。
サイディング外壁には定期的な点検と補修や張り替えが必要になってきますが、住宅の定期点検が義務化されていない日本では、相当劣化するまで放置されている家が多いのではないかと思います。また、屋根や外壁の劣化に限らず、飛来物で外壁が破損したりすることもあるでしょう。
結果的に、雨水が外壁の中にまで入り込んでしまうことになる可能性があることは、なんとなくわかっていただけるのではないかと思います。
さて、そこで二次防水の出番です。これは、一次防水ラインを飛び越えてきてしまった雨水などに対して効果を発揮するもので、先に述べた透湿防水シートや、屋根であればスレートの下に敷くルーフィングという建材などがそれに当たります。
つまり、構造上、日本の家の防水は二段構えになっているということです。
そして、ここからが本題になります。
外壁のパッキン(シーリング)などが劣化していくことが分かっている以上、透湿防水シートによる二次防水は「最後の砦」といったところなのですが、なんとこの透湿防水シート、白蟻薬剤や太陽熱で化学変化を起こします。
詳しくいうと、白蟻を排除するための防蟻薬剤には、少ない量でまんべんなく行き渡らせるために界面活性剤が入っているのですが、この界面活性剤が透湿防水シートに影響を与えます。
界面活性剤は洗剤にも入っているものですね。本来は張力で玉になってしまう「水」という物質を、ペターっと広げる(張力を弱くする)機能が、この界面活性剤にはあります。
結果的に、この界面活性剤によって張力を失った水は、防水シートの網(メッシュ)を通り抜けられるようになるのです。
上記の勉強会でも講義の際に実験をしていただきました。透湿防水シートに、①普通の水と②洗剤を混ぜた水、それぞれこぼしたらどうなるかを比較していただいたのですが、案の定、洗剤入りの方は防水せずに水を通してしまっていました。(写真の右側のビーカー、水が溜まっているのが分かるでしょうか?)
防蟻薬剤も必要なものですから、これを散布しない、ということは難しいでしょう。
というか、透湿防水シートは、本来水を防ぐべき、お施主さまの資産となる家を守るためにとても重要な建材なのに、この程度の外的要因で、その役目を果たせなくなってしまってよいのでしょうか?
また、「日本透湿防水シート協会」も、もちろんその現象を承知しているようで、HPのお知らせを見ると、下記のように記載があります。
これを拝見したとき、私の頭の中は「?????」でした。
「施工中に、雨で濡らさないようにしてください」というのは、裏を返せば「濡れてはまずい素材です」と言っていることになります。
しかし、先にお伝えしたように、これは二次防水ライン。突破されてしまうリスクのある一次防水の先の、最後の砦であるはずです。それなのに、これを濡らさないでくださいというのは、その本来の「防水性能」を有していないということになりませんか?
このような問題は、実は10年近く前から言われていたことでした。また、海外の製品では、こういった課題を解決している透湿防水シートもあります。(弊社も、現在ではその海外製品を使用しています)。ですので、そのリスク解消が実現不可能というわけではないのに、国産メーカーの透湿防水シートは、ほぼすべて、この「防水シートなのに防水しない問題」が起こります。
このような状況を何年も放置してきたメーカーの姿勢にも憤りを感じますし、それを問題視していなかった建築業者側の勉強不足も恥ずかしさを感じてしまいます。
世の中を見れば、非常に多くの住宅会社(私個人の感覚では9割以上)が、まだこういったリスクのある国産の透湿防水シートを使用しています。
雨漏りのリスクと対策方法など
先にもお伝えした通り、防水というのは、非常に奥が深いものです。永遠に防水し続けられる素材は、いま存在しませんから、なるべくその性能を長く保てるような素材を使い、さらに設計上も工夫をしなければいけないのです。
「あだちの家」は極力バルコニーを作らない設計にしているのですが、これも実は防水の問題からです。よくあるベランダやバルコニー、屋上庭園などは、雨漏りのリスクが非常に大きいと考えておりますので、構造と一緒には作らず、建物とは分離して外側からつけることにしています。
もう一度言いますが永遠に防水し続けられる素材はありません。1階の部屋の上に通常の防水施工でバルコニーを作ってしまえば、いずれ必ず雨漏りをします。
実際、西山さんに発表いただいた資料によれば、住宅の保険事故のうち94%近くが「雨漏り」だそうですが、これは現代の日本の住宅の作り方に問題があるのではないかと考えられます。
また、雨漏りが見えれば実はまだよい方で、壁の中の構造体を伝って水が基礎まで落ちていくだけだったりすると、湿った柱が見えないところで白蟻に食べられて、構造的にも耐力がなくなり、地震が来たらあっけなく崩れてしまう…といったことになるでしょう。
また、意匠(デザイン)設計の際にも注意が必要です。建物のかたちで、雨漏りのリスク度合いがわかります。最近流行しているキューブ型など、軒のない住まいは、雨漏りの観点から見ると特に危険です。
もちろん、そのかたちのものすべてが雨漏りするわけではありませんが、人生100年の時代、建てたマイホームには何十年も住み続けることになるかもしれません。住んでいる時間が長ければ長いほど、劣化のリスクは高まっていきますし、実際に、キューブ型や軒ゼロの住宅の方が、雨漏り事故が多く起きているようです。
こういった背景や知識・技術を知らなければ、本当の意味でリスクに備えることはできません。
おわりに
正直、かなりマニアックな部分ですし、ここまで読み進めて下さった方は全体の1%くらいじゃないかな?と思います。笑
けれど、逆にここまで読んでいただけた方には、家を形づくる建材や部材の長期性能は、設計と同じくらい大事だということが分かっていただけたのではないかと思います。
環境委員会の研修会では他にも窓サッシや断熱材の耐久性についても企画させていただいたのですが、ちょっと想像以上に長くなってしまったので(汗)、今回触れられていない建材・素材のことも含め、具体的なことはまたあらためてブログを書きたいと思います。
その他、家づくりをお考えの方で、「こんなテーマについて知りたい」などありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。正しく、ためになる情報発信をしていきたいと思います。
もちろん資料請求なども歓迎です。弊社の家づくりの基本的な部分をご理解いただける資料になっているかと思います。