家づくりを突き詰めた施主さんたちの悩み

足立建築 代表の足立です。

前回のブログでは、「最新の家づくり勉強法」についてお伝えしましたね。コロナ禍も相まって、情報流通の構造が変わり、家づくりを考えているユーザーさんも正しい情報に触れやすくなったことについて触れました。

その流れの中で、プロ以上の知識を持つ「プロ施主」と呼ばれる人々も出てきたこと。また、プロ施主の方々がTwitterやブログなどで自ら家づくり情報を発信するようになったため、業界の大半を占める知識不足の工務店や設計事務所、ハウスメーカーが、ふるいにかけられ、淘汰されていく流れについてお話しました。

今回は、そんなプロ施主のみなさんが、「知識があるからこそ悩んでしまう」現状について触れてみたいと思います。

家づくりを学ぶほどに分かる「大問題」

家づくりにおいて検討すべき要素は実際かなり広範なものなのですが、プロ顔負けの熱量で学び、よい家づくりを追求しているユーザーさんたちがいます。主にTwitter界隈で「プロ施主」と呼ばれている方々です。

プロ自身の知識不足や勉強不足がこれほど目立つ業界も珍しく、また恥ずかしいことだとは思うのですが、お施主さんたちにしてみれば、家づくりは一生に一度、自らの資産の大半をかけて行う一大事。「きちんと学びたい!」という強い気持ちを持たれるのも納得できるところです。

そんなプロ施主さんたち、本当に、プロである我々がみても驚いてしまうほどに勉強されており、プロ顔負けの知識をお持ちなので、「この基準で家づくりができたら、いい家づくりができるよな〜」といつもその熱量に感動し、尊敬の念を抱いています。と同時に「住宅事業者が不甲斐ないからお施主さまが勉強しなきゃいけなくなるんだよなあ…」と反省しきりなのですが、そんなプロ施主さんだからこそぶち当たる「壁」というものも、あります。

何かといえば、それは単純、

すべての項目をパーフェクトに満たした家は存在しない

ということを、実感として理解してしまうのです。

これだけだと分かりづらいと思うので、解説します。

まず、上述したように、家づくりでは多方面の要素について、同時並行的に検討を進めなければいけません。構造、温熱、耐久性、持続可能性、予算、意匠性…などですね。

それらの要素、個別で見れば「これがいい!」というのは分かりやすいのですが、自分の家づくりに導入しようとすると、途端に難易度が上がります。

なぜなら、住宅を構成しているそれらの各要素は、設計においてトレードオフの関係性も多く存在するからです。

例えば、構造強度を高めようとすると意匠性を損ねやすくなったりする、というのが分かりやすいでしょうか。それ以外にも温熱や耐久性などさまざまな項目で、各要素が綱引きをしているのです。

残念ながら、設計者でも、そのようなことをきちんと理解している方はそこまで多くないのですが、恐ろしいかな、プロ施主の方々はその類まれな勉強量で、ありえないスピードでこのようなことをきちんと理解されていきます。

初期段階で仕入れた「耐震性能はこれ」「耐久性を高めるならこれを使うべき」といった知識をベースにしながら、それらをすべて詰め込んだ100点満点の『究極の家』を夢見るわけですが、さらに学びを深めていくうちに、そんな家はありえない(それを現実にできる施工業者や設計者が存在しない)という事実に、みなさんたどり着いてしまって愕然とされるわけです。

これが単純に予算の話だったら、お金を出せばいい家を建てられる、という結論で分かりやすいのですが、実際にはそういうわけでもありません。施工技術などは、お金をかければ大丈夫というものでもないのです。
お金で解決できる部分ももちろんありますが、いくら出しても、完全な正解にはたどり着けないと思ったほうがよいでしょう。

その問題に拍車をかける「大問題2」

そしてまた、上記の家づくりの構造上の問題に拍車をかけるかたちで二つ目の問題が明らかになります。

それは、

求める最低基準を満たした家づくりをしている工務店が圧倒的に少ない

ということです。

言い方は悪いかもしれませんが、ちゃんとしていない「なんちゃって工務店」が一定数存在していることにも、プロ施主さんたちは気づきます。

耐震で言えば、耐震等級3の許容応力度計算。温熱で言えば、温熱計算や全棟気密測定…など、本来は当たり前にやってほしいことが全然できていない工務店が、業界の大半を占めているわけです。

もちろん、プロ施主さんたちの知識があれば、それらの工務店は簡単に除外していけるのですが、そうやって除外し続けた結果、選べる会社がほとんどなくなってしまう、というのが現在進行形で起きている二つ目の問題かな、と思います。技術力のある工務店があまりにも少ないということですね。

ただ、そうやって選択肢から除外できるならばまだいい方で、本当に大きな問題は、

「許容応力度計算していて、耐震等級3です」
「高い耐久性の家づくりをしています」

などと掲げている住宅会社ですら、本当に選んでいい会社なのか判別しきれないということでしょう。

さまざまなところで述べられているように、家づくりは設計と施工の両輪で成り立っています。
きちんと性能を担保する部材の選定や設計ができていることは大前提で、その設計通りの施工が、高い精度で行われていることが非常に重要なわけです。

そして、これらの領域は、多くの場合、プロ施主さんたちの知識を持ってしても、判断しきれない部分になってしまいます。

例えば、

「無垢材で許容応力度計算しているけど、断面欠損の低減率は入れているのか?」
「JIS認定は取れてるっていうけど、海外の基準からしたらずいぶん甘い。大丈夫なの?」
「コンクリートの強度って、現場検査していないけど本当に強度が担保されているの?」

などなど。

こういったところまで理解できている技術者はほとんど存在しませんし、そこまでの厳密さで現場管理ができている会社もほとんどありません。

過去のブログでも述べてきたように、法定の基準自体も甘々で、かつ義務化された検査もないわけですから、安心・安全な施工がなされているかどうかをお施主さんが判断することはとても難しいのです。

これはこれで、非常に根深い問題だと思いませんか?

では、どうしていけばよいのか?

さて、このような状況、プロ施主さんたちにとっても悩ましいと思うのですが、前向きに捉えている方々もいらっしゃいます。

 


いや、素晴らしいなと。これらのTwitterでのつぶやきを拝見した際、心の底から賛同いたしました。(他にもそういうツイートが本当にたくさんあります)

例を挙げればキリがありませんが、そもそも業界自体が発展途上。私を含め、よりよい家づくりの方法をみんなで学び合い、模索している最中だったりもするわけです。(ゴールがあるとも思いませんが)

そんな住宅業界ですから、パーフェクトな選択というものが存在しません。ですから、語弊を恐れずにいえば、その人なりの妥協点(≒正解)を見出す必要があります。

当たり前ですが、その正解は住まう人によって異なります。意匠性なのか、数値なのか、日々の情感なのか、はたまた。

例えば、『あだちの家』は耐震等級3が最低基準ですし、プロとしてそれ以下を許容することはできませんが、法律で規制されていない以上、住まい手本人の選択として耐震等級1を選ぶこともできます。断熱だって、どのレベルを目指すかは住まい手の求める快適さのレベルや、将来の社会へのビジョンなど次第。

必要な性能は、時間軸でも変わります。30年先までで良いのか、100年先まで考えるのか。それによって部材の選び方だって変わります。建築業者にもさまざまあり、それぞれの考え方で家づくりをされています。これ自体は否定も肯定もなく、いろいろあるのが当たり前だと思っています。

自らが将来の社会に果たすべき責任や、使い捨て住宅を建てるデメリットを知った上で判断されるのであれば、極論、それはそれでOKなのだとも思います。

自分自身が何を求めているかを整理整頓した上で、ご自身の予算や性格なども踏まえ、落としどころを見つけ、判断していく必要があるということです。

ただし、いずれにしても、それらの判断や取捨選択は自己責任ですし、正しい判断をするには、やはり自分なりに学び続けて、知識や基準を自分のものにしていくことが大前提としてあります。(業者に丸投げは危険ということです!)

家づくりに限った話ではありませんが、正しい知識と思考法でものごとを選んでいくことは、ご自身のよりよい人生につながっていくはずです。

そして、もちろん、家づくりのパートナーとして選ぶのは、その考え方に共感できる工務店。先に述べたように、ある要素とある要素がトレードオフになることがほとんどなので、それらのバランス感覚に、各社の独自性が出てきたりします。

弊社のように平均点を高める家づくりをしている工務店もいれば、ある一面に極端に特化している工務店もいます。お住まいの地域で信頼できる会社が見つけられなければ、優良な設計事務所に設計監理をお願いするのもよいでしょう。(トークライブ仲間の、JIN建築工房一級建築士事務所さんもおすすめです^ ^)

ちなみに、悩んだとき、実現してくれる項目が多くて、コストも安価な会社に頼んでしまいがちになると思いますが、それはあまりお勧めできません。結果的にすべてが許容できるラインを下回ってしまうことが多いためです。

価格が安いということには必ず理由があります。その理由が納得できるものかどうか必ず確認しましょう。場合によっては、予算内では実現出来る項目は少ない工務店でも、希望した項目の施工品質は高く、結果的に満足できる結果になることも多くあります。

そういう意味で、デメリットを許容できるか、それを補ってメリットを選択できるかどうか。また、家づくりのパートナーとしてその工務店を信じ切れるかどうか。ぜひ、あなたにも、そんな観点から家づくりを検討していただきたいと思います。

一、焦らず、納得できるまで時間をかけること。
一、その中で、自分なりの正解(妥協点)を見つけ、優先順位をつけること。
一、それに付き合ってくれる工務店を選ぶこと。
一、そのために、自ら学ぶこと。

こういったことを念頭において、今後も家づくりをお考えいただければ幸いです。

P.S.

さて、Twitterなどで設計と施工の徹底ぶりを発信していると、まれに「地元に足立建築があればいいのに!」というお声もいただきます。とってもありがたい話で、こんな極小の工務店に、そのような評価をいただけて本当に嬉しいです。

手前味噌ではありますが、全棟で住宅性能評価をやり続けていて、厳密な施工精度のチェックをしているのは全国でもおそらく弊社くらいではないかな〜、と思っております。

性能評価をしていて思うのは、やはりすべての住宅会社が住宅性能評価を採用すべきだなということ。設計と施工の客観的なチェックは必須ですし、それらは公的に行うべきだろうと考えています。

「信頼できる工務店が見つからない…!」というあなた、設計と施工の両方に性能評価を導入することで、最低限の安心は得られるかと思います。ぜひご検討ください。

とはいえ、そもそも知識・技術のある工務店が周りにいない、という地域の方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、少し長い目で家づくりを考えましょう。2〜3年くらいかけて、あなたと一緒に勉強していきたいと思ってくれる、前向きな工務店を探すのがおすすめです。

今時点では知識・技術不足だったとしても、本来、お施主さまの期待には応えたいのがものづくりの人々。ぜひ、信頼・納得できる技術者さんを見つけていただきたいと思います。

足立建築
足立 操

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