「地球に住む責任」外部コストは誰が払う?

足立建築代表の足立です。

 

前回のブログは気候変動リスクのお話でした。長寿命で省エネ、耐久性が高い「いい家」を建てることで、気候危機を乗り越えていきましょう、というお願いでしたね。

 

自分としてはかなりの熱量で伝えたいテーマであったのですが、気候変動の問題は、なかなか理解いただけない領域であるのもまた事実…

 

でも、すごく重要なことなので、ぜひ理解していただきたい!ということで、今回は動画でお伝えすることにしました。

 

…と言っても、私の動画ではありません。

 

私の気持ちをまさしく代弁くださっている方がいるので、ご本人の許可を得て当ブログでも紹介させていただきます。引用元はYouTube「高性能な家づくりチャンネル」。運営しているのは今泉太爾氏です。

 

今泉さんは、日本エネルギーパス協会代表理事、国土交通省不動産流通活性化フォーラム、住宅のエネルギー表示の在り方の研究会委員、日独国土交通省共同プロジェクト委員、長野県環境審議会地球温暖化対策専門員などを歴任しているお方で、気候変動を重要な社会問題だと認識しておられる、数少ない実務者のうちの一人です。

 

少し前にアップされた以下の動画は、お客さまだけではなく、家づくりに携わるすべての方に見ていただきたい、素晴らしい動画です。30分弱の動画ですが、ぜひ最後までご覧ください。

 

▼今泉さんYouTubeチャンネル動画

家を建てる前に絶対に考えてほしい!
高性能住宅と環境問題の関係(持続可能性を考える)

 

 

…さて、ご覧いただけましたでしょうか?

 

いちおう、振り返っていきましょう。

 

環境問題、最初は公害問題から始まったということでしたね。たとえば工場が、自分の利益だけを追求して産業廃棄物や有毒物質の処理をせず、空や川に垂れ流しにすれば、処理コストはゼロです。日本でも高度経済成長の初期は何も考えずにそれらを排出していたため、周辺環境は汚染され、地域住民の健康被害につながっていました。それらの経験を元に、後処理まで含めてコストを考えるようになったわけです。

 

その次が、ゴミ問題。工場だけではなく、一般家庭やオフィスなどでも廃棄物は出ます。マイクロプラスチックと言われるような微細なプラスチックが海洋に流出し、生態系に影響を与えていることに触れられていました。

 

そして、今や環境問題といえば「地球温暖化」。地球温暖化は現実問題として起こっていて、今後さらに進行していくと、日本では局地的に降る雨の量が増大していくというお話でした。実際、大雨が降る日は増えていて、それによる浸水や土砂崩れなども頻発しています。何十年に一度と言われていたような大雨が最近では毎年発生しているのも事実です。これは20年以上も前から警鐘を鳴らされていて、でも人類はそれを無視してきました。その結果が今である、ということでした。

 

そして、これらの環境問題と密接に関わるものとして「生物多様性」における問題に触れられていましたね。生物多様性は、他の動植物や生態系に大きな悪影響を及ぼさないよう、生きていくという考え方でした。日本ではほとんど浸透していませんが、ヨーロッパをはじめ、世界では主流になりつつあるそうですね。地球の環境変化によって、絶滅してしまう種も出てきそうだ、ということでした。

 

動画では、

 

公害問題のように、人間への影響も考えずに行う経済活動…下の下

人間への影響を考えて、ゴミ処理などはルールを決める…下の上(いまの日本)

経済活動を行うときは地球や他の生物への影響も考える…今後の世界潮流

 

というふうに整理されています。

 

また、併せて「外部コスト」という考え方も紹介してくださっています。自分本位、人間本位な考え方をしたときに、そのツケは、外部にいる人や生物が払うことになる、というものです。地域の住民や、動植物などの生態系や、未来の子どもたち。

環境問題のほとんどは、その外部コストが、生産者や消費者と切り離されていることで起きるのだと言うことでした。

消費活動の外側にいる人たちが負担するコストについて、消費者や事業者はきちんと目を向けなければいけない、という強いメッセージを感じた箇所です。

 

商品製造で生まれた直接的なエネルギーコストは払っても、そこで生まれた大量の二酸化炭素が将来的に地球に与える影響までは考えない企業や消費者がほとんどです。その外部コストは誰が払うのかと言ったら、今後、被害が大きくなっていく地域が払うことになります。日本も、そういう地域のひとつだそうです。先に述べた大雨や台風も、その結果ですね。災害というかたちで、そのコストを支払っているということです。

 

「自分以外の誰かがそのコストを払えばいい」と考えるのは、極めて自分勝手で問題がある考え方だと、私もそう思います。

 

最近重要視されている「持続可能性(サステナビリティ)」というのも、まさにこの外部コスト問題を解消するためのものだと言えます。

 

今泉さんは動画で、持続可能性についてもわかりやすく伝えてくださっていました。

 

 持続可能性の基本は「自然の生産能力」を超えて消費しないこと

 

このように定義してくださっています。環境問題について課題感を持っていながらも、どうしたらいいか分からずに考えるのをやめてしまっている方は、ぜひ覚えていってほしいところです。(このあたりから、住宅のお話です)

 

日本の家は木造住宅が主流ですが、家を建てるとき、国産の木材を使っているのであれば、たいていは戦後に植樹された木で、樹齢は60〜70年です。だから、60〜70年かけて育った樹木で、30年で取り壊すような家づくりをしてしまうのは、持続可能性ではありません。それなら、60年以上は長持ちするよう、耐久性を高めて、大切に使うのが基本です。

 

先進的な地域工務店が長持ちする家を建てるのは、実は当たり前にそうすべきことなんですよね。

 

短命な住宅を建てていることによる外部コストの影響は、森林が多い地域で顕著です。たとえばインドネシアで自然林が伐採されていく。はげ山のようにされていく。そんな地域がたくさんあるそうです。そういう場所に植林するとコストが上がるから、はげ山はそのままにされてしまいます。

それは、世界中の人々が安い木を求めるから、植林するコストを木材の売価に上乗せできず起きている問題です。

伐採も、ちゃんと育った木だけを選んで切っていくのではなく、そのエリアでまとめて切って、まとめて輸送した方がコストが安くなるから、そういうふうに調達する業者が増える。

はげ山にしてしまったら、そこに息づく生態系は絶滅するけれど、そういうことを気にしなければ安い木材が仕上がる。世界中がそれを求めていて、特に日本はそういう木材を使っているそうです。

ヨーロッパで主流の林業は、森林が年間で成長する材積量を測り、一年間で増えた分だけ、部分的に伐採するやり方だそうです。(天然更新と言います)

これはコストはかかりますが、高いのではなく、外部コストをきちんと製造コストに入れ込んだ結果です。外部コストを、周辺住民や地域の生態系に支払わせない、ということです。

 

そういう観点で地球温暖化を見てみましょう。実際、化石燃料はまだまだ残っています。オイルやガスは50年分、石炭は150年分、ウランも90年分は埋蔵量があります。だから石炭や原子炉は貯蓄も多いしコスパがいい、将来性もいい、と考えている人が日本には多いそうです。残存量が多いからコストが安いということですね。

 

でも、化石燃料は、地球がそれを作るのに何千万年、何億年もかけています。それほどの時間をかけたものを数十年で使い切るのは、まったく持続可能ではありません。使用量をゼロにするのは難しいけれど、必要なところでだけ、大切に使うという方向にシフトする必要があると今泉さんは動画内で提言しています。

 

住宅に目を向ければ、空調や給湯で必要な熱はたかだか20〜40度。太陽熱をうまく利用することで、十分まかなえるレベルの熱量です。普遍的に存在している熱を上手に使うために、パッシブ建築が必要だということですね。もちろん、夏の暑さを逃すために自然風を使うなどの工夫も同様です。

そして、手に入れた熱や涼しさを逃がさない、というために断熱のような躯体性能も重要になっていきます。敷地の中で手に入る自然エネルギーを有効活用するのは、環境保護の観点からも非常に重要だと、これで多くの方にご理解いただけるのではないでしょうか。

 

前回のブログでも説明した通り、地球温暖化対策は世界共通の取り組みです。現在の人類の二酸化炭素排出量は年間で350億トン(2019年)。地球上の全動植物が吸収してくれる二酸化炭素の量は180億トンなのだそうです。つまり、イーブンにするには、排出量を半分にすればよい。

住宅領域であれば、それができます。半減どころではなく、ZEHというかたちでゼロにすることもできます。初期費用は多少追加されますが、それは将来的なエネルギーコストを初期に回しているだけですし、耐久性の高い住宅であれば充分に元が取れる選択です。

 

今泉さんも最後に述べられていますが、消費者である「あなた」の行動変容が重要です。

 

——–

 

と、このあたりまでが今泉さんの動画の要約となります。本当に、素晴らしい動画だと思います。(今泉さん、ありがとうございました)

 

「エコロジカルフットプリント」という考え方がありますが、もし世界中の人々が我々日本人のような暮らし方をしたら、地球が2.4個、必要になるそうです。それだけ私たちは地球の資源に依存しているということですし、それはまた、日本人がその自然環境の恩恵を過度に受けているという事実の裏返しでもあります。

 

もちろん日本だけではありませんが、多くの先進国や企業が持続可能でない開発をし続けていることで、外部コストも膨張を続けています。

 

外部コストは、災害の激甚化や生態系の激変といったかたちで、今や「いのち」で支払われています。すべての災害が気候変動によるものだとは言いませんが、それにより犠牲になっているいのちの数は、すでに数えることができないほどです。

 

そして、その犠牲者の数は、今後も倍々で増えていく可能性があります。

 

ツケを払うのはどこかの国の誰かではなく、あなたかもしれないし、ちょっと遠くに住んでいるあなたの家族かもしれない。もはや他人事ではないということです。私たちひとりひとりに責任があるし、それを自覚すべきだと思います。偽善やエゴだと言われても、足立建築も、地域に住まうひとりひとりにその責任を求めていきます。

 

今泉さんの動画をご覧いただけたあなたなら、もう分かるはず。ぜひ、理性的な選択をしていただきたいと、強くそう思います。

 

さて、2021年2月24日には河野大臣が主導の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」の公開討議がありましたが、見識ある事業者や消費者の間で、こちらの内容がにわかに盛り上がっていますね。

 

詳しくは次回のブログで取り上げたいと思いますが、国の動きも待ったなしで、気候変動問題に取り組む方向にシフトチェンジが始まっています。

 

家もすでに余っている国内市場なのに、短命で、エネルギー効率の悪い住宅を、これ以上建てる理由はどこにもありません。

 

足立建築としても、地域でその考えを先導していきたいと思っていますし、弊社で家づくりを検討してくださっている方には、ぜひその視点で一緒に歩んでいってほしいとも思っています。

 

こういう考え方には賛否両論あるのは承知しています。「どうせポジショントークでしょ?」みたいに思われる可能性があることも。

 

でも、それなら他の住宅会社で建てていただいても、私としては構いません。外部コストをきちんと負担できる家を建てていただけるなら嬉しい限りです。(なんちゃっての高性能住宅も多いので、そこだけは注意していただきたいですが)

 

いずれにしても、私たち世代のツケ(外部コスト)を未来の子どもたちに払わせるのだけは、もうやめていきましょう。

 

足立建築
足立 操

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